千葉地方裁判所松戸支部 昭和41年(ワ)8号 判決 1969年9月30日
原告
進藤正直
ほか三名
被告
栗原虎治郎
主文
原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告側―「被告は、原告進藤正直に対し金五万円・原告沖田喜四郎に対し金五万円・原告広瀬三郎に対し金二〇万円・原告広瀬なかに対し金二〇万円及び右各金員に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言
二、被告側―「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決
第二、請求原因
一、(本件事故の発生)
(1) 昭和三八年一月一七日午後四時三〇分頃、千葉県柏市新富町五一九番地先所在の一級国道六号線上の道路交差点において、南方松戸市方向から右六号線上を北進して来た原告進藤正直が運転し原告沖田喜四郎と広瀬節夫とが同乗する小型貨物自動車足す七一五六号(以下原告車と略称)右交差点を右折進行するためその入口で一時停止した際、これに追従進行してきた荒井得二運転の普通貨物自動車茨四そ四〇四八号に追突されて右斜前方の対向車道上まではね飛ばされ、更にこの対向車道上で折柄対向進行し来た萩原一美運転の大型貨物自動車茨一せ三八号(以下被告車と略称)に衝突されて右斜後方約二三米の地点まではね飛ばされた、という事故(以下本件事故と略称)が発生した。
(2) 右事故により、原告進藤正直が約二ケ月の安静加療を要する頭部挫創・第二腰椎圧迫骨折・右下腿打撲傷擦過創の傷害を、原告沖田喜四郎が約三週間の安静加療を要する脳震盪・頭部裂創・腰背部打撲の傷害を受け、広瀬節夫は頭蓋内出血により約二時間後に死亡した。
二、(本件事故により原告ら及び亡広瀬節夫に生じた損害)本件事故により
(一) 原告進藤正直は左記(1)ないし(3)所掲の合計金三九万九九八三円の損害を受けた。
(1) 治療費・入院諸かかりの支出―金二万六三五五円
(2) 得べかりし利益の逸失―金一七万三六二八円
(3) 精神上の損害―金二〇万円
(二) 原告沖田喜四郎は左記(1)ないし(3)所掲の合計金二一万四一七〇円の損害を受けた。
(1) 治療費・入院諸かかりの支出―金一万一六七〇円
(2) 得べかりし利益の逸失―金五万二五〇〇円
(3) 精神上の損害―金一五万円
(三) 原告広瀬三郎は前記亡広瀬節夫の実父であるが、左記(1)ないし(3)所掲の合計金三一万五八〇九円の損害を受けた。
(1) 亡節夫の治療費支出―金三六七九円
(2) 亡節夫の遺体運搬及び葬式の費用支出―金六万二一九〇円
(3) 精神上の損害―金二五万円
(四) 原告広瀬なかは前記亡広瀬節夫の実母であるが、左記損害を受けた。
精神上の損害―金二五万円
(五) 亡広瀬節夫は左記損害を受けた。
得べかりし利益の逸失―金一一八万二一七〇円
右逸失利益の算出根拠―右節夫は、本件事故により死亡した当時満一八年の健康な青年で、進藤設備工業株式会社に勤務して一ケ月平均金一万五九二六円の給与を受けており、またその一ケ月の平均生活費は金九〇三〇円位であつたと推定される(総理府家計調査月報によれば、昭和三七年一〇月の全都市平均一世帯四・一七人の一ケ月の家庭消費支出は金三万七六五〇円であり、従つて世帯員一人当りのそれは金九〇三〇円である)から、同人の当時の一ケ月間の平均純収入は金六八九六円、一年間の平均純収入は金一〇万八三六〇円ということになり、この程度の純収入はその後も継続することは殆んど確実であつたところ、同人の平均余命が五〇・二七年であることが厚生省統計調査部発表の第一〇回生命表に照らし明らかであつて、同人は右余命年数間なお生存を続ける可能性を有し、右余命年数間生存を続ければ合計金四一三万七六〇〇円に上る年金的純収入を得ることができたわけであり、この年金的純収入を年五分の民事法定利率によりホフマン式計算法をもつて同人の事故死当時の現価に換算すれば金一一八万二一七〇円となり、事故死によりこの得べかりし利益を逸失したことになる。
三、(前期損害につき被告に対する賠償請求権の成立)
被告は、本件事故当時、被告車の所有主で、これを株式会社佐藤工務店に貸与し使用させていた者であつて、自動車損害賠償保証法三条の規定する「自己のため自動車を運行の用に供する者」に該当し、同条の規定に基づき本件事故により発生した前記損害を賠償する責を負い、原告ら及び亡広瀬節夫は被告に対しその賠償請求権を取得した。
四、(亡広瀬節夫が取得した右賠償請求権の原告広瀬三郎・同広瀬なかによる承継取得)
亡広瀬節夫の遺産相続人はその実父母である原告広瀬三郎・同広瀬なかのみであり、従つて同原告らは亡節夫が取得した前記損害賠償請求権の二分の一宛を相続により取得した。
五、(結び)
よつて、原告進藤正直及び同沖田喜四郎は、本件事故により同人らが受けた前記各損害の一部賠償として、被告に対し、それぞれ金五万円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、また原告広瀬三郎・同広瀬なかは、本件事故により各自が受けた前記損害及び亡広瀬節夫が受けた前記損害の二分の一に対する一部賠償として、被告に対し、それぞれ金二〇万円及びこれに対す前同遅延損害金の支払を求める。
第三、請求原因に対する答弁
一、二及び四所掲の各事実は不知。
三所掲の事実及び主張は否認。
被告車は、株式会社佐藤工務店が、昭和三七年夏頃東都日産モーター株式会社から購入し、同店が茨城県下において営む採石業等に供用していたものである。ただ本件事故が発生したといわれる昭和三八年一月当時被告車の車検登録が被告名義になつていた事実はあるが、これは、昭和三七年八月末頃佐藤工務店及び同店に被告車を販売した東都日産モーター株式会社の係員中野熙から被告に対し、採石地における居住者名義であれば車検登録が比較的容易にできるとの理由をもつて、かつ車検登録後一〇日以内に登録名義人を佐藤工務店に変更するとの条件を附して、被告車の車検登録につき被告の名義を貸与されたい旨の切なる懇請があつたため、被告が已むなくこれに応じ、その後翌九月半頃右中野から被告に対し、車検登録の名義変更になお三ケ月位の期間を要するとの理由をもつて、更に三ケ月間右車検登録に被告名義を貸与しおかれたい旨の懇請があつたため、被告がこれにも已むなく応したが、右中野がその後右約束に背き三ケ月の期間経過後も右車検登録の名義変更をなさずに放置していたことによるものである。
第四、証拠〔略〕
理由
一、(本件事故発生について)
〔証拠略〕によれば、請求原因一の(1)所掲の原告車と被告車との衝突事故が発生し、右事故により、原告進藤正直・同沖田喜四郎が重傷を負い、広瀬節夫が死亡するに至つた事実が認められる。
二、(右事故により生じた損害に対する被告の負責事由の存否について)
〔証拠略〕によれば、被告車は株式会社佐藤工務店が昭和三七年九月初頃東都日産モーター株式会社から、代金月賦払い代金完済に至るまで所有権を売主に留保する約定で、購入したものであることが認められ、また〔証拠略〕によれば、被告車は本件事故の前後に亘り右佐藤工務店がその営業に供用していたものであつて、被告がこれを使用していたものでないことが認められる。そして被告車の車検登録が本件事故当時被告名義になつていたことは被告の認めるところであるが、〔証拠略〕によれば、これは、昭和三七年八月末頃東都日産モーター株式会社の係員中野煕から被告に対し被告車の車検登録につき被告名義を借用したいとの申入れがあり、かねて前記佐藤工務店と知合つていた被告がこれを断りかね、名義貸与期間を一〇日間と制限して応諾し、その後翌九月二一日に至り右中野から被告に対し、車検登録の名義変更には更に三ケ月位の期間を要するとの理由で、右名義貸与期間を更に三ケ月延長されたいとの申入れがあり、被告はこれにも已むなく応諾したが、右中野は右延長された名義貸与期間の経過後も車検登録の名義変更の手続をとらずに放置していたことによる、との事実が認められる。なおまた〔証拠略〕によれば、被告は前記名義貸与に関し何らの対価も受けていない事実も認められる。
被告の被告車に対する関係が上記認定のとおりに過ぎないとすれば、本件事故の場合被告が自動車損害賠償保障法三条の規定する「自己のため自動車を運行の用に供する者」に該当すると解することは当を得ないと判断されるのであつて、被告は本件事故により生じた人的損害につき右法条の規定による賠償責任を負うものではなく、従つて原告らは被告に対しその賠償請求権を有するものでない、といわなければならない。
三、結論
上述の理由により、原告らの請求は、失当であることが明らかであるから、これを棄却し、民事訴訟法八九条九三条一項により訴訟費用の負担を定めて、主文のとおり判決する。
(裁判官 斉藤孝次)